理念と歴史(数理情報工学)

理念と歴史(数理情報工学)

理念

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数理情報工学コースでは,数理工学的手法および情報工学的手法を用いて工学の諸問題に挑戦するための学問体系を修得することを目的としている.数理工学および情報工学は,単に数学を工学へ応用したり,コンピュータを利用したりすることだけを意味するものではない.情報工学の大きな使命の一つは,現実の問題をコンピュータを利用して解決することであるが,そのためには,問題の構造をモデル化し,そこに現れるさまざまな形態の情報を解析できるように定式化しなければならない.数理工学では,数学をその一部として含む論理的なものの捉え方・扱い方を手がかりに,対象とする問題の本質を抽出し,解析し,その問題に即して厳密解や近似解などの解決方法を導く.さらに,それら数理工学的解法をコンピュータなどの道具を用いて実問題に適用して行くことを目的としている.このように,数理工学は情報工学と不可分の関係にあり,数理工学なくしては情報工学は存在しえないものである.

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数理情報工学では,不確実な現象を扱う確率・統計的手法,離散および連続量を取り扱うための代数・幾何・解析的手法,あるいはアルゴリズム論などを基礎に,時系列解析・カオス・複雑系・最適化・オペレーションズリサーチ・符号化・推定・制御・ソフトウエア工学などの多枝にわたる手法が存在するが,これらは工学の諸分野だけでなく社会・経済・生体・自然現象などの幅広い分野における問題解決にも利用されている.しかし,それらの応用分野は時代の要請とともに変化するため,それらを取り扱う手法も常に推移し続けなければならない.したがって,そこで活躍する数理工学者および情報工学者は,既存の使える数学を道具の一部として修得するだけではなく,混沌の中に埋もれた物事の本質を見出す能力と,既存の数学では不十分なところを補うために自ら必要な数学を作り出す能力を持たなければならない.また,対象を自分の都合のよいように設定することなく,真に解くことが求められている問題を直視する勇気と,机上の議論に終始することなく,自ら開発した手法を実用に結びつけるところまで磨き上げる責任と忍耐も必要である.

このように,数理情報工学は方法論に関する学問であり,特定の産業分野に結びついたものではない.したがって,「寄らば大樹のかげ」というわけにはいかないが,逆に,何物にも拘束されない自由を持ち,どのような分野に進んでも活躍の場を見出すことができる.そして,おのおのの数理工学者および情報工学者は,既存の秩序の欺瞞を暴き新しい秩序を建て直すもよし,未開の地を開拓して定住するもよし,未開の地から未開の地へゲリラとして這い回るもよし,である.ただし,世の中に背を向けて閉居してはならない.世の中の既成の秩序あるいは無秩序と戦う学問,それが数理情報工学である.


歴史

1946 応用数学科設立
1951 応用物理工学科設立により同学科数理工学コースとなる
1954 一講座が航空学科ヘ移行
1962 計数工学科設立,数理工学コース設置される
1972 工学系大学院に情報工学専門課程が新設, 情報処理工学講座が計数工学科に附置される
1995 数理工学コースに数理原論講座が加わる
2001 大学院改変に伴い,数理工学コースを数理情報工学コースと改名. 英語名”Mathematical Engineering”から”Mathematical Information Engineering”へ変更

終戦に伴って廃止された航空学科のうち最終的に3講座が転換され,昭和21年3月に応用数学科が新設された.この学科の目標は,工学諸問題の数理的側面を横断的にとらえ,統一的な理論を構築するとともに,現代数学の新しい応用分野を積極的に開拓して広い視野を持った新鮮な工学者・技術者を育成することであった.この目標に向かって応用数学科は応用代数・幾何学,解析工学,統計工学,機械計算学などの研究と教育を行ない,時代に即した新しい応用数学を確立し,昭和29年(1954)までに9回,計114名の卒業生を送り出した.

昭和26年新制大学への以降に伴い,3コース11講座からなる応用物理学科が新設された.応用数学科の3講座は数理工学コースと改称,新たに固有の学生を教育することになった.また航空学科の再開に伴い,昭和29年に数理工学コースの1講座が航空学科へ移行した.

その後,わが国の産業の飛躍的な発展に伴って工学部も大きく拡張し,昭和 37年(1962)に応用物理学科が改組拡充されて,計数工学科と物理工学科の2学科になった.そして計数工学科に数理工学コースが設置された.この際,数理工学コースには2講座が新設され,また計測工学コースから1講座が移行して計5講座になった.

昭和47年(1972),大学院工学系研究科に,いわゆる横型専攻(多くの学科の教官が協力して教育・研究にあたる専攻)として情報工学専攻が新設され,情報処理工学講座が計数工学科に附置された.計数工学科の多くの教官が情報工学専攻を兼担し,計数工学科が情報工学専攻の中心的な役割を担うこととなった.

東京大学における大学院重点化に伴い,大学院が部局化され,平成5年 (1993)に計数工学科の教官は,所属が工学部から大学院工学系研究科に移り,工学部を兼担することになった.(従来は,工学部に所属し,大学院工学系研究科を兼担していた.)この組織変更に伴い、各講座が数理工学大講座に大講座化されると共に,数理情報工学原論講座が増設された.また,大講座化されたため,計数工学科における研究グループの呼称を「講座」から「研究室」へ変更した.

平成11年(1999),大学院新領域創成科学研究科複雑理工学専攻が新設され,計数工学専攻の教官の一部が複雑理工学専攻に移った.また,平成12年(2000) に,文理融合型の情報に関する研究・教育を行う情報学環・大学院学際情報学府が新設され,計数工学専攻から流動講座として2名の教官が情報学環に移った.

東京大学における理系の情報に関連する研究・教育は,従来理学系研究科と工学系研究科に分離していたが,より充実した教育と研究を行うため,平成13 年(2001)にそれらを統合して,新たに大学院情報理工学系研究科が設置された.それに伴い,大学院情報理工学系研究科の数理情報学専攻に移行した.また,その組織変更に対応して,工学部計数工学科のコース名称を,数理工学コースから数理情報工学コースに変更した.

現在,数理情報工学コースは 8 研究室(先端科学研究センターシステム分野の研究室を含む)から構成されており,その教員は情報理工学系研究科数理情報学専攻,新領域創成科学研究科複雑理工学専攻,情報学環,先端科学研究センターのいずれかに所属している.

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