統計的学習理論

データマイニング,ゲノムデータ,パターン認識などの分野では,大量のデータから学習を行い,観測されていない未知のデータについて適用できる情報をできる限り多く抽出すること(汎化)が要求される.このためにサポートベクトルマシンやニューラルネットを利用した学習が注目されており,関連する新しいモデルや手法が次々と提案されている.確率・統計,最適化,アルゴリズム,統計物理など数理情報のさまざまな方法が活躍している.

多変量解析

アンケート調査のように,多くの項目に回答のあるデータを多変量データとよぶ.多変量データを解析するさまざまな手法を総称して統計的多変量解析とよぶ.その主なものには,回帰分析,主成分分析,判別分析などがあげられる.これらの他にも計算機の発達にともない,より複雑なさまざまな解析手法が提案され研究されている.数学的な道具としては,線形代数が基礎であるが,群論などの代数的手法や微分幾何学等の幾何学的手法も用いられ,理論的にも深い理論が展開される分野である.

時系列解析

時刻と共に変化するデータを時系列という. 地震波・オーロラ等の自然現象, 為替・株等の経済現象, 脳波・心電図等の生命現象, 電力消費量・原子炉等の工学現象等のさまざまな現象に現れる量的な時系列やDNAの塩基配列, 疾患の良悪等質的な時系列がある. 時系列の背後にある時刻と共に変化する現象の数学的モデルが確率過程である. 不規則に変化するように見える時系列に触れたとき, その不規則な動きを支配する時間発展がどのようなものかを抽出し, 時系列の不規則な動きの一端を捕らえる性質を発見できたら最高の喜びであり, 時系列解析の目的の一つである. 時系列解析には確率過程論, 統計学, 関数解析, プログラミング, 計算機等さまざまな分野が関係している.

離散凸解析

離散的な集合(例えば整数格子点の集合)の上で定義された関数の構造を,凸解析と組合せ論の両方の視点から考察して,「離散」と「連続」を統一的に捉えようとする理論である.最適化,システム解析,オペレーションズ・リサーチ,数理経済学などへの応用があり,離散凸解析の視点に立つと,電気回路における電流と電位の関係と経済学における財と価格の関係が同じ種類のものであると理解される.離散凸解析は,近年,日本を中心に発展した分野横断的な学問である.

組合せ最適化

組合せ的な離散構造に由来する制約条件によって規定された実行可能解の中から, 目的関数を最小(または最大)にするものを見出す問題を組合せ最適化問題という. 代表的な組合せ最適化問題としては, 各辺に長さが与えられたグラフにおいて, 2点間の最短経路を求める最短路問題や各頂点を1度ずつ通る最短巡回路を求める巡回セールスマン問題がある.最短路問題が動的計画法によって効率的に解けるのに対し, 巡回セールスマン問題はNP困難であり, 効率的に解くことは不可能であろうと考えられている.このような難しい組合せ最適化問題に対しても, 各種の近似解法や分枝限定法を含めて, 現実的な時間内に, 実際的な問題を解決するための研究がなされている.

グラフ理論

グラフとは, 点と線(辺)からなる図形である.多数の要素間の結合関係をモデル化する道具として有用である.その応用分野は, 電気回路網の解析, 光学異性体の分類, VLSIの配線設計など多岐に渡る.グラフの各点や各辺に長さや容量といった数量が付加されたものをネットワークという. 数理情報工学においては, 単に数学的対象としてのグラフの諸性質を調べるよりも, むしろ現実の問題をグラフやネットワークを用いてモデル化し, 効率的なアルゴリズムを設計して問題を解決することが重要である. 効率的なアルゴリズムの設計は, 最大流最小カット定理のような自明でない定理を発見し, 証明を与えることと表裏一体の関係にあることが多い.

線形計画法

線形計画問題とは, 線形不等式系を満たす変数の組のうちで線形関数を最小(または最大)にするものを求める問題である. 線形計画問題の記述能力は高く, 入手可能な資源を用いて利潤が最大となるよう各製品の生産量を決める生産計画, 各製品を各消費地まで最小費用で運搬する輸送計画, 最短の日数で工事を完了させる日程計画など, 現実世界における多くの最適化問題が線形計画問題として直接的にモデル化される.また, 組合せ最適化問題を解くための基本的な道具としても線形計画法は重要な役割を担っている. 線形計画問題に対する解法としては, 1947年にDantzigによって提案された単体法が, 改良を重ねつつ, 長いこと主流を占めていた. しかし, 1984年には, Karmarkarによって, 全く異なるアルゴリズムが提案され, 内点法と総称される一群の新たなアルゴリズムが登場した. 計算複雑度の観点からは, 線形計画問題に対する強多項式時間解法の開発が主要な未解決問題とされている.

ゲーム理論

ゲーム理論は,プレイヤーと呼ばれる複数の意思決定主体(例えば人間や会社,政党など)が存在する状況を扱う理論である.このような状況は経済現象においてしばしば現れるが,工学等の分野においても,システムが複数の人間を含む場合に現れる.ゲーム理論は,プレイヤーが互いに非協力な場合に何が起るかを考える「非協力ゲーム理論」と,互いに協力的な場合に,得た利益(あるいは損失)をどう配分するかを議論する「協力ゲーム理論」に大きく分れる.歴史的には,ゲーム理論は数学者フォンノイマンと経済学者モルゲンシュテルンによって創始され,数学者ナッシュによって大きく進歩した.近年では,経済現象だけでなく,進化生物学や生態学など様々な分野に力を発揮している.ゲーム理論は,システムに人間を含む状況を数理的に取り扱える数少ない手法の一つであり,数理工学においても重要な視点をしばしば与えてくれる.

金融工学

ファイナンスは純粋数学的側面が強い数理ファイナンスと数理工学的側面が強い金融工学に分類される. 数理ファイナンスでは1970年代の経済学者ブラック・ショールズ・マートンによる幾何ブラウン運動という確率過程に基づく「株価に対するオプションの客観的な公平な価格付けの問題」の数理的研究以来, 経済的時系列に対するモデルとしての確率過程が与えられたときの無裁定価格理論とリスク中立測度の考えに立脚した完備市場の理論が中心である. 最近では, 非完備市場のモデルとしての幾何レビー過程が調べられている. しかし, それらのモデルに対するリスクの問題, リスク管理の問題, デリバティヴの開発とその価格付けの問題等の実証的な金融工学の研究はファイナンスの研究において数理ファイナンスと両輪になっている. 金融工学には確率過程論, 統計学, 経済学, 統計物理学, 時系列解析等さまざまな分野が関係している.

オペレーションズ・リサーチ

オペレーションズ・リサーチは,工場の運営管理や企業のマネジメント等に用いられる数理的な手法である.また近年では,身近な問題にもその手法は用いられている.工場の運営管理では,生産計画や在庫計画を,需要予測に基ずいて立案する際に用いられている.またマネジメント分野では,マーケティングに基ずくプロジェクトの立案や,組織における人員配置等にも用いられている.さらに身近な所では,地下鉄の乗換案内検索や,コンビニエンスストアへの品物の配送計画,携帯電話ネットワークの整備,エレベータの群管理等,様々な場面でその手法は用いられている. 用いられる手法は,離散・連続最適化手法,統計確率手法,ゲーム論的手法など多岐に渉る.このような数理的手法を縦横無尽に駆使して,現実問題に挑む,問題解決のための学問がオペレーションズ・リサーチである.