コンピュータビジョン

人は,網膜に写った画像から目の前のシーンを理解する.この視覚認識機能をコンピュータで実現するための計算機構を開発しようとするのが,コンピュータビジョンとよばれる学問分野である.人の視覚の柔軟性は,その人の人生経験のすべてを総動員して実現されるものであり,それを数理的原理に還元させようとすることは,科学が高度に進歩した現代でも挑戦に値する未踏の分野である.

地理情報処理

地図や地形を中心とする地理的データを多面的に有効利用しようとする分野が,地理情報処理である.ここでは,目的地までの最短経路の探索,公共施設の配置の最適化,商業活動の分析と予測,エネルギー供給網の設計と管理など多様な課題が扱われる.そして,それらの課題を解決するために,グラフ・ネットワーク,計算幾何,多次元補間,統計処理など,さまざまな数理手法が活躍する場でもある.

テキストマイニング

大規模な文書データの中から,自明ではない知識を発掘する技術のこと.文書中の重要単語や用例などといった言語上の知識のほか,広くは顧客のニーズといった商業上の知識の発掘を試みる研究例もある.統計を基礎に,自然言語処理,情報検索,機械学習,計算言語学といった分野での研究がさかんである.

自然言語処理

自然言語,たとえば日本語や英語といった人間の言葉を,コンピュータで処理する技術のこと.自然言語処理の研究分野では,構文解析や意味解析といった基礎技術に基づき,自動翻訳,対話システムといった複合的なシステムを実現することを目的としている.この他,かな漢字変換,検索エンジン,質問応答システム,自動要約生成など,自然言語とコンピュータに関わることをすべて取り扱う分野である. 以前は,言語内に存在する規則を人間が記述し,それに基づいた小規模な言語処理が行われるにすぎなかった.一方で,90年代以降は,巨大な言語データを用いて言語現象を捉え,その知見に基づいてさまざまな言語処理を行うことがさかんとなっている.数理工学の観点では,言語の数理的なモデル化を行い,それに基づいた言語処理が試みられている.数理モデルとしては,統計,グラフ,複雑系科学などの分野などに基づくものがある.

情報セキュリティ・暗号理論

情報の盗聴や改竄を防止するための秘匿や認証などを実現する符号化技術を暗号という.暗号は,計算量的安全性に基づく方式と情報量的安全性に基づく方式とに大きく分類される.前者は,敵対者が解読するために必要な計算量がとほうもなく膨大で,実質的に解読不可能な方式であり,主に整数論に基づき構成されている.後者は,将来どのように計算技術が進歩しても,それに依存せずに安全性が保証されている方式であり,情報理論などに基づいて構成されている.公開鍵暗号,ディジタル署名,ゼロ知識証明,秘密分散,セキュリティプロトコルなど,さまざまな暗号技術が開発されている.

符号理論

通信路の雑音などにより生じた誤りを,自動的に検出し訂正することができる符号を誤り訂正符号といい,それらを,代数的な手法を用いて構成する理論を符号理論という.現在では,ほとんどの情報がディジタル化されているため,そのような符号は有限体(有限個の離散集合で,四則演算が定義できる集合)理論を用いて構成されている.また,誤りは通信路雑音の確率分布に依存するため,これらの理論と確率論や統計理論をうまく結びつけることにより,性能のよい符号構成が可能となる.

情報理論

情報を「効率よく,高品質で,安全に」記録あるいは通信するために,それぞれ「データ圧縮,誤り訂正,情報セキュリティ・暗号」用の符号化技術が用いられている.情報理論は,そのような符号化に関する基礎理論であり,性能のよい実用的な符号を作る研究と,符号の性能限界を求める研究とに分かれている.特に後者はシャノン理論と呼ばれ,圧縮効率の限界や誤り訂正の限界が,それぞれエントロピーや相互情報量など情報源や通信路の確率により定まる情報量で与えられる.これらの性能限界が分かれば,具体的な符号に対して絶対的な性能評価を行うことができるようになる.

制御理論

制御理論とは「ものを思い通りに動かすための技術」である.ここで言う「もの」とは,従来は機械システムや電気システムであることが多かったが,最近では通信システム,生物システム,量子システムなども含まれるようになってきている.制御理論の分野は,対象となる「もの」のダイナミクスを数式で記述するためのモデリング,モデリングされたダイナミクスに基づいてどのように制御したら良いかを考える制御系設計,そして,完成した制御系の性能評価を行なう制御系解析に大別される.モデリングにおいては統計的手法が使われることが多く,制御系設計と制御系解析では,線形システムの場合なら最適化や関数解析の手法が,非線形システムの場合なら微分幾何学や非線形力学系の手法が使われることが多い.このように広い工学的応用と,豊かな数理的構造を持つことが制御理論の特徴であり,その意味で数理工学らしい分野の一つであると言える.

分岐理論

細長い竹の棒を立てて上から押してみる.徐々に力を加えていくと,最初は真っ直ぐであるが,ある時点で突然,グニャと曲がってしまう.どちらに曲がるかは予測できない.このような現象は,数理的には,パラメータ(力の大きさ)を含む非線形方程式においてパラメータの値を変化させたときに複数の解が現われる現象と捉えられる.本来一意的に決まっていた解が複数に枝分かれするという意味で,解の分岐と呼ばれる.自然界や工学システムには様々な分岐現象が見られ,しばしば,対称性やパターン形成と深く関係している(竹の棒の例では,グニャと曲がって対称性を失っている).分岐理論は,非線形方程式や微分方程式の分岐を数学的に扱う枠組みであり,微分方程式論,特異点理論,群論,数値計算法などと結びついている.