脳,遺伝子ネットワーク,生体内化学反応,生物進化,経済現象,地震などのように,数多くの要素が互いに絡みあった作用をし,その結果,組織化された振る舞いを示す系が複雑系と呼ばれている.複雑系は,自己組織化,準安定性,ゆっくりした緩和,ガラス的状態,非ガウス的分布,スケール不変性などの共通した動的および構造的な特質を持っている.つまり,システムは様々な複雑な要素を含み,互いに絡みあっているのにも関わらず,たとえば,脳は効率よく情報処理をし,遺伝子は機能し,経済システムは維持され,株式市場や地震はベキ法則を示すなどのように秩序構造をシステムが自ら形成しているような系である.このような秩序構造を個別的にあるいは統一的に解明することが課題となっている.
月: 2018年1月
カオス
カオスとは決定論的な非線形システムが示す予測不可能で乱雑な振る舞いのことである.カオスは,このような決定論と予測不可能という一見矛盾した2つの側面をあわせもっており,非線形現象の多様さと普遍性を明らかにするための鍵となる現象である.ここで,普遍性とは,たとえば,2次関数で記述されるような離散時間の時間発展システムと流体の熱対流のように一見まったく無関係であると思われるようなシステムが定性的にも定量的にも共通の法則性を持つということである.また,カオスと情報処理,制御,暗号や秘匿通信などとの係わりを明らかにし,カオスを応用することもカオスの研究の重要なテーマである.
量子情報
光子や電子などを,1つの粒子ごとに制御して通信や計算が行えるようになると,各粒子は量子力学に基づいた振る舞いをすることになる.その結果,量子状態は本質的に確率的にしか記述できなくなり,測定すると量子状態が変化するなど,古典系とは異なる特性を持つ事になる.量子暗号では,その特性を利用して,盗聴者の存在を見つけ出すごとができる.量子計算では,量子の確率的な振る舞いを利用することにより,例えば素因数分解を多項式時間で行うことができる.さらに,古典系と同様に,量子系における符号化効率の限界を求める量子情報理論や環境からの量子状態への悪影響を低減させるための量子誤り訂正符号などの研究がなされている.
流体力学
液体と気体をまとめて流体とよび,その運動を調べるのが流体力学である.水の波・流れ,飛行機・車・船のまわりの流れ,パイプの中の流れ,室内の空気の流れなど,我々の身の回りには流体力学の対象となる現象があふれている.したがって,古くから研究が行われているが,流体の運動は微分方程式や積分方程式により記述されるので,さまざまな数学的手法が開発されている.たとえば,複素関数論,ポテンシャル論,微分方程式論,数値計算法,摂動論,可積分系,力学系などの進歩は,流体力学なしでは考えられない.また,乱流のように実用上重要な未解決問題も多い.計算機の進歩とともに,新しい理論的ブレークスルーが期待される分野である.
遺伝情報解析
ゲノム科学の進歩が情報科学と結びついて,バイオインフォマティクスと呼ばれる分野が大きく発展している.ゲノムの塩基配列情報の解読や遺伝子・蛋白質ネットワークの数理モデル化とそのダイナミクス解析など,数理情報学がゲノム科学において果たすべき役割はたいへん大きい.
脳の数理
21世紀は脳の世紀とも呼ばれ、我が国においても、「脳を知る」、「脳を守る」、「脳を創る」、「脳を育む」の4つの柱のもとで、様々な研究が展開されている。このような脳研究におけるひとつの重要な方法論は、脳の数理モデルを構築してその理論解析により脳の情報処理のからくりを明らかにすることである。神経細胞(ニューロン)や神経回路網(ニューラルネットワーク)の数理モデル、学習理論、カオス脳計算論など多彩な研究が行なわれている。
システム10-檜山
教員紹介

東京大学大学院 情報理工学系研究科
システム情報学専攻
講師
〒113-8656 東京都文京区本郷 7-3-1 工学部 1 号館 408号室
Tel: 03-5841-0459
Fax: 03-5841-8695
E-mail:atsushi_hiyama@ipc.i.u-tokyo.ac.jp
[ホームページ]
略歴
2003年 | 東京大学 大学院情報理工学系研究科 知能機械情報学専攻 修士課程修了 |
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2006年 | 東京大学 大学院工学系研究科 先端学際工学専攻 博士後期課程修了,博士(工学) |
2006年 | 東京大学 先端科学技術研究センター・特任助手 |
2006年 | 東京大学 大学院情報理工学系研究科 知能機械情報学専攻・特任助手 |
2008年 | 東京大学 IRT研究機構・特任助教 |
2010年 | 東京大学 IML・特任研究員(IRT研究機構 併任) |
2011年 | 東京大学 大学院情報理工学系研究科 知能機械情報学専攻・特任助教 |
2013年 | 東京大学 大学院情報理工学系研究科 知能機械情報学専攻・特任講師 |
2016年 | 東京大学 先端科学技術研究センター・講師 |
2016年 | 東京大学 大学院情報理工学系研究科 システム情報学専攻・講師(兼担) |
研究テーマ
超高齢社会においては、個人のスケールから社会のスケールにわたって多くの課題に直面している。バーチャルリアリティ、IoT、ソーシャルメディアなどの情報メディア技術は、サイバースペースを個人、コミュニティ、そして社会と融合させ、多様な人材の能力を活かし、社会との多様な関わり方を許容する方向で、これからの社会をデザインすることに活用可能である。システムとしての人間と社会に対する理解に基づき、ウェアラブルコンピュータを用いた身体能力の拡張、時空間を超えた社会参加を実現するテレイグジスタンスやソーシャルメディアを用いたクラウドソーシングの活性化など、人と社会を拡張する技術の社会実装を目指す。
主な論文・著書
- Hiyama, A., Kobayashi, M., Takagi, H., and Hirose, M. Mosaic: Collaborative Ways for Older Adults to Use Their Expertise through Information Technologies. SIGACCESS Newsletter, 110, ACM, September 2014, 26-33.
- 檜山敦, 土山裕介, 宮下真理子, 江渕栄貫, 関正純, 廣瀬通孝:”一人称視点からの多感覚追体験による伝統技能教示支援”,日本バーチャルリアリティ学会論文誌, Vol.16, No.4., 643-652., 2011.12
- 檜山敦, 今井智章, 谷川智洋, 廣瀬通孝:”拡張現実感ビークルを用いた遠隔展示解説支援”,日本バーチャルリアリティ学会論文誌, Vol.16, No.1., 35-44., 2011.3
- 檜山敦,ユビキタスコンピューティング,バーチャルリアリティ学(舘,佐藤誠,廣瀬通孝 監修),5章を分担執筆,工業調査会, 2010.1
- 檜山敦, 山下淳, 西岡貞一, 葛岡英明, 広田光一, 廣瀬通孝,:「ユビキタスゲーミング」位置駆動型モバイルシステムを利用したミュージアムガイドコンテンツ,日本バーチャルリアリティ学会論文誌, Vol.10, No.4, pp.523-532, 2005.12
システム10-稲見
教員紹介

東京大学大学院 情報理工学系研究科
システム情報学専攻
教授
〒113-0033 東京都文京区本郷 7-3-1 工学部 6 号館 240号室
Tel: 03-5841-8695
Fax: 03-5841-8695
E-mail:masahiko_inami@ipc.i.u-tokyo.ac.jp
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略歴
1996年 | 東京工業大学 大学院生命理工学研究科 バイオテクノロジー専攻 修士課程修了 |
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1999年 | 東京大学 大学院工学系研究科 先端学際工学専攻 博士後期課程修了,博士(工学) |
1999年 | 東京大学 国際・産学共同研究センター・リサーチアソシエイト |
2001年 | 東京大学 大学院情報理工学系研究科 システム情報学専攻・助手 |
2003年 | 電気通信大学 電気通信学部 知能機械工学科・講師 |
2003年 | 独立行政法人 科学技術振興機構・さきがけ研究員(併任) |
2005年 | 電気通信大学 電気通信学部 知能機械工学科・助教授 |
2005年 | マサチューセッツ工科大学 コンピュータ科学人工知能研究所・Visiting Scientist(併任) |
2006年 | 電気通信大学 電気通信学部 知能機械工学科・教授 |
2008年 | 独立行政法人 科学技術振興機構 ERATO 五十嵐デザインインタフェースプロジェクト・グループリーダー(併任) |
2008年 | 慶應義塾大学 大学院メディアデザイン研究科・教授 |
2015年 | 東京大学 大学院情報理工学系研究科 システム情報学専攻・教授 |
2015年 | 慶應義塾大学 大学院メディアデザイン研究科・客員教授(併任) |
2016年4月 | 東京大学 先端科学技術研究センター・教授 |
2017年4月 | JST ERATO 稲見自在化身体プロジェクト・総括 |
研究テーマ
生理的知見に基づき、身体性をシステム的に理解し設計可能とする「身体情報学」に関する研究に興味を持つ。
・自在化技術
機器に代替作業をさせる「自動化」と並立する概念として、本来人がやりたいことを人とシステムが「人機一体」となり、自在に行うことを可能とする「自在化」を提唱している。この自在化を実現するために、人間の身体・行動をシステム的に理解することを目標とする。
・新たな身体性の獲得
バーチャルリアリティ、拡張現実感、ウェアラブル技術、ロボット技術、テレイグジスタンスなどを援用し、人間の能力を拡張することで、超身体、脱身体、変身、分身、合体など、新たな身体観を獲得するための研究開発を行い、社会実装をゴールに定める。
・エクスペリエンス工学
体験とは、結果に至る主観的な過程である。エンタテインメントコンピューティングや超人スポーツなどの研究開発を通し、体験・経験を適切に設計し、記録、再生、伝達することを目指す。
主な論文・著書
- Takeo Igarashi and Masahiko Inami, Exploration of Alternative Interaction Techniques for Robotic Systems, Computer Graphics and Applications, IEEE, vol.35, Issue 3, pp.33-41, 2015.5
- Susumu Tachi, Masahiko Inami and Yuji Uema: The Transparent Cockpit, IEEE Spectrum, vol.51, no.11, pp.52-56, 2014.11.
- 松原仁,松野文雄,稲見昌彦,野田五十樹,大須賀公一 編集,ロボット情報学ハンドブック,ナノオプトノクスエナジー,近代科学社, 2010.3
- 柳田康幸,稲見昌彦,苗村健,VRコンテンツ,バーチャルリアリティ学(舘,佐藤誠,廣瀬通孝 監修),7章を分担執筆,工業調査会, 2010.1
- 新居英明,ラメッシュ・ラスカル,藤井智子,常盤拓司,稲見昌彦,STGC(シングルトラックグレイコード)を用いた投影型空間エンコーダ,電子情報通信学会論文誌 D,92(10), pp.1784-1792, 2009.11
システム8-近藤
教員紹介

東京大学大学院 情報理工学系研究科
システム情報学専攻
准教授
〒113-8656 東京都文京区本郷 7-3-1 工学部 6 号館 247 号室
Tel: 03-5841-0445
Fax: 03-5841-0445
E-mail:kondo@hal.ipc.i.u-tokyo.ac.jp
[ホームページ]
略歴
2003年 | 東京大学大学院工学系研究科先端学際工学専攻博士後期課程修了,博士(工学) |
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2003年 | 科学技術振興機構戦略的創造研究推進事業研究員 |
2004年 | 東京大学先端科学技術研究センター特任助手 |
2007年 | 東京大学先端科学技術研究センター特任助教授 |
2008年 | 電気通信大学大学院情報システム学研究科准教授 |
2013年 | 東京大学大学院情報理工学系研究科准教授 |
研究テーマ
組込みシステムから大規模高性能計算機システムに至る広範囲なコンピュータシステムにおいて、高性能・低消費電力・高信頼なコンピューティングの実現を、アプリケーションの特性に応じて、ハードウェア構成方式・コンパイラ・システムソフトウェアを含むシステム階層間の協調設計と実行時最適化により目指す研究を行っている。主な研究テーマは以下の通りである。
1. 高性能・省電力計算機システム構成:
高性能・省電力を実現するプロセッサアーキテクチャ、マルチコア・メニーコアシステムの実現方式、モデリングによるコンピュータシステムの高性能・低消費電力化アルゴリズム。
2. ハイパフォーマンスコンピューティング:
超並列コンピュータシステムのアーキテクチャとシステムソフトウェア、次世代スーパーコンピュータの電力管理方式と電力制御アルゴリズム。
3. 認識に基づくIT環境の高効率化:
行動認識によるIT器機の電力管理方式、物体認識向けプロセッサの構成方式、コグニティブコンピューティング。
主な論文・著書
- M. Kondo, et al.: Design and Evaluation of Fine-Grained Power-Gating for Embedded Microprocessors, Proc. the DATE2014, March 2014.
- S.T. Nguyen, M. Kondo, T. Hirao, and K. Inoue: A Prototype System for Many-core Architecture SMYLEref with FPGA Evaluation Boards, IEICE Transactions on Information and Systems, Vol.E96-D, No.8, pp.1645-1653, Aug. 2013.
- M. Kondo and H. nakamura: A Small, Fast and Low-Power Register File by Bit-Partitioning, Proc. the HPCA-11, pp.40-49, Feb. 2005.
システム8-中村
教員紹介

東京大学大学院 情報理工学系研究科
システム情報学専攻
教授
〒113-8656 東京都文京区本郷7-3-1 工学部1号館507号室
Tel: 03-5841-6915
Fax: 03-5841-8595
E-mail:nakamura@hal.ipc.i.u-tokyo.ac.jp
[ホームページ]
略歴
1990年 | 東京大学大学院工学系研究科電気工学専攻博士課程修了,工学博士 |
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1990年 | 筑波大学電子・情報工学系助手 |
1995年 | 筑波大学電子・情報工学系助教授 |
1996年 | 東京大学先端科学技術研究センター助教授 |
2008年 | 東京大学大学院情報理工学系研究科准教授 |
2010年 | 東京大学大学院情報理工学系研究科教授 |
研究テーマ
物理世界と情報世界の高度なインタラクションを実現する高品質コンピューティングの実現を目指して、回路実装・アーキテクチャ・コンパイラ・システムソフトウェア・アルゴリズムを含む多様なシステム階層間の連携・協調による高性能・高信頼・低消費電力計算システムに関する以下の研究を行っている。
1.超低消費電力VLSIシステム:
VLSIアーキテクチャ,超低電力回路技術、超低電力回路技術に適した 命令実行制御方式とコンパイラ,ハードウェア/ソフトウェア 協調設計,VLSIシステムの性能・電力モデリング,モデリングに基づく低消費電力プロセス管理.
2.省電力コンピューティング:
行動計測と予測に基づく省電力コンピューティング環境の実現, 性能・電力モデリングに基づく動的電源制御とプロセス管理.
3.高性能並列計算システム:
並列システムアーキテクチャ,高密度実装型クラスタシステム,ハイパフォーマンスコンピューティング.
4.ディペンダブルシステム:
高信頼サーバシステム,障害検出と自己再構成,オープンな環境下での高信頼でセキュアなシステム.
主な論文・著書
- H. Sasaki, Y. Ikeda, M. Kondo, H.nakamura: An Intra-Task DVFS technique based on Statistical Analysis of Hardware Events, Proc. of Computing Frontiers 2007, pp.334-337, Melbourne, Dec. 2007
- M. Kondo and H. nakamura: A Small, Fast and Low-Power Register File by Bit-Partitioning, Proceedings of HPCA-11, pp.40-49, Feb. 2005
- P.R. Panda, H. Nakamura, N.D. Dutt, and A. Nicolau : Augmenting Loop Tiling with Data Alignment for Improved Cache Performance, IEEE Transactions on Computers, Vol.48, No.2, pp.142-149, February, 1999