線形計画問題とは, 線形不等式系を満たす変数の組のうちで線形関数を最小(または最大)にするものを求める問題である. 線形計画問題の記述能力は高く, 入手可能な資源を用いて利潤が最大となるよう各製品の生産量を決める生産計画, 各製品を各消費地まで最小費用で運搬する輸送計画, 最短の日数で工事を完了させる日程計画など, 現実世界における多くの最適化問題が線形計画問題として直接的にモデル化される.また, 組合せ最適化問題を解くための基本的な道具としても線形計画法は重要な役割を担っている. 線形計画問題に対する解法としては, 1947年にDantzigによって提案された単体法が, 改良を重ねつつ, 長いこと主流を占めていた. しかし, 1984年には, Karmarkarによって, 全く異なるアルゴリズムが提案され, 内点法と総称される一群の新たなアルゴリズムが登場した. 計算複雑度の観点からは, 線形計画問題に対する強多項式時間解法の開発が主要な未解決問題とされている.
年: 2018年
ゲーム理論
ゲーム理論は,プレイヤーと呼ばれる複数の意思決定主体(例えば人間や会社,政党など)が存在する状況を扱う理論である.このような状況は経済現象においてしばしば現れるが,工学等の分野においても,システムが複数の人間を含む場合に現れる.ゲーム理論は,プレイヤーが互いに非協力な場合に何が起るかを考える「非協力ゲーム理論」と,互いに協力的な場合に,得た利益(あるいは損失)をどう配分するかを議論する「協力ゲーム理論」に大きく分れる.歴史的には,ゲーム理論は数学者フォンノイマンと経済学者モルゲンシュテルンによって創始され,数学者ナッシュによって大きく進歩した.近年では,経済現象だけでなく,進化生物学や生態学など様々な分野に力を発揮している.ゲーム理論は,システムに人間を含む状況を数理的に取り扱える数少ない手法の一つであり,数理工学においても重要な視点をしばしば与えてくれる.
金融工学
ファイナンスは純粋数学的側面が強い数理ファイナンスと数理工学的側面が強い金融工学に分類される. 数理ファイナンスでは1970年代の経済学者ブラック・ショールズ・マートンによる幾何ブラウン運動という確率過程に基づく「株価に対するオプションの客観的な公平な価格付けの問題」の数理的研究以来, 経済的時系列に対するモデルとしての確率過程が与えられたときの無裁定価格理論とリスク中立測度の考えに立脚した完備市場の理論が中心である. 最近では, 非完備市場のモデルとしての幾何レビー過程が調べられている. しかし, それらのモデルに対するリスクの問題, リスク管理の問題, デリバティヴの開発とその価格付けの問題等の実証的な金融工学の研究はファイナンスの研究において数理ファイナンスと両輪になっている. 金融工学には確率過程論, 統計学, 経済学, 統計物理学, 時系列解析等さまざまな分野が関係している.
オペレーションズ・リサーチ
オペレーションズ・リサーチは,工場の運営管理や企業のマネジメント等に用いられる数理的な手法である.また近年では,身近な問題にもその手法は用いられている.工場の運営管理では,生産計画や在庫計画を,需要予測に基ずいて立案する際に用いられている.またマネジメント分野では,マーケティングに基ずくプロジェクトの立案や,組織における人員配置等にも用いられている.さらに身近な所では,地下鉄の乗換案内検索や,コンビニエンスストアへの品物の配送計画,携帯電話ネットワークの整備,エレベータの群管理等,様々な場面でその手法は用いられている. 用いられる手法は,離散・連続最適化手法,統計確率手法,ゲーム論的手法など多岐に渉る.このような数理的手法を縦横無尽に駆使して,現実問題に挑む,問題解決のための学問がオペレーションズ・リサーチである.
コンピュータビジョン
人は,網膜に写った画像から目の前のシーンを理解する.この視覚認識機能をコンピュータで実現するための計算機構を開発しようとするのが,コンピュータビジョンとよばれる学問分野である.人の視覚の柔軟性は,その人の人生経験のすべてを総動員して実現されるものであり,それを数理的原理に還元させようとすることは,科学が高度に進歩した現代でも挑戦に値する未踏の分野である.
地理情報処理
地図や地形を中心とする地理的データを多面的に有効利用しようとする分野が,地理情報処理である.ここでは,目的地までの最短経路の探索,公共施設の配置の最適化,商業活動の分析と予測,エネルギー供給網の設計と管理など多様な課題が扱われる.そして,それらの課題を解決するために,グラフ・ネットワーク,計算幾何,多次元補間,統計処理など,さまざまな数理手法が活躍する場でもある.
テキストマイニング
大規模な文書データの中から,自明ではない知識を発掘する技術のこと.文書中の重要単語や用例などといった言語上の知識のほか,広くは顧客のニーズといった商業上の知識の発掘を試みる研究例もある.統計を基礎に,自然言語処理,情報検索,機械学習,計算言語学といった分野での研究がさかんである.
自然言語処理
自然言語,たとえば日本語や英語といった人間の言葉を,コンピュータで処理する技術のこと.自然言語処理の研究分野では,構文解析や意味解析といった基礎技術に基づき,自動翻訳,対話システムといった複合的なシステムを実現することを目的としている.この他,かな漢字変換,検索エンジン,質問応答システム,自動要約生成など,自然言語とコンピュータに関わることをすべて取り扱う分野である. 以前は,言語内に存在する規則を人間が記述し,それに基づいた小規模な言語処理が行われるにすぎなかった.一方で,90年代以降は,巨大な言語データを用いて言語現象を捉え,その知見に基づいてさまざまな言語処理を行うことがさかんとなっている.数理工学の観点では,言語の数理的なモデル化を行い,それに基づいた言語処理が試みられている.数理モデルとしては,統計,グラフ,複雑系科学などの分野などに基づくものがある.
知識情報処理
知的な情報処理をコンピュータの上に実現する技術のこと.知識情報処理の研究分野では,人間の知識体系をコンピュータ上に実現することと,それを用いて知的な情報処理を実現するための方法論の確立を目指している.人工知能分野との関連が深い.
情報セキュリティ・暗号理論
情報の盗聴や改竄を防止するための秘匿や認証などを実現する符号化技術を暗号という.暗号は,計算量的安全性に基づく方式と情報量的安全性に基づく方式とに大きく分類される.前者は,敵対者が解読するために必要な計算量がとほうもなく膨大で,実質的に解読不可能な方式であり,主に整数論に基づき構成されている.後者は,将来どのように計算技術が進歩しても,それに依存せずに安全性が保証されている方式であり,情報理論などに基づいて構成されている.公開鍵暗号,ディジタル署名,ゼロ知識証明,秘密分散,セキュリティプロトコルなど,さまざまな暗号技術が開発されている.