並列プログラミング

計算機プロセッサ(CPU)と高速ネットワークの発展によって,並列処理環境が簡単に得られるようになった.こうした環境を活かすためには,計算を逐次に行なうだけではなく,いくつかの計算を並行して進めてゆくという並列計算機構が必要である.計算機構は一般に,プログラムを書くための言語に反映され,人が設計したアルゴリズムを表現する手段として用いられる.計算機構をコンパイラなどといったプログラム言語の処理系として計算機上に構築することによって,アルゴリズムを計算機上に実現できることになる.逐次の計算機構に対する言語処理系の設計技術はかなりよく整理されてきているが,並列計算機構については未解決の問題が多い.並列計算機上でプログラムを効率よく実行するための計算機構とそれに基づくプログラム言語の処理系を構築することは,重要な課題のひとつである.

計算複雑度

計算機の能力が向上することにより現実的な時間で解けるようになった問題は多いが,計算能力の向上だけでは対処できない問題も存在する.こうした問題では計算対象の大きさが少し増えるだけで計算の手間が大きく増大し,これはその問題が本質的に難しいことを意味している.この計算時間に関する問題の難しさを計る指標が計算複雑度である.計算対象の大きさを変数として,その大きさに対して線形(一次式),多項式,指数関数というように表現する.同様に,計算に必要とされる空間量の指標を空間複雑度という.

関数プログミング

ソフトウェアがどんどん複雑になるにつれ,それを上手に構造化することがますます重要になっている.関数プログラミングは,ラムダ計算の概念をベースに関数だけで全体が構成され,すべての計算は関数の適用によって行われている.有名な関数型言語には Lisp,Haskell,MLなどがある.関数自体を引数として扱う高階関数と必要になるまで計算評価を行なわない遅延評価という二つの特徴により,関数プログラミングはソフトウェアの構造化に大きく貢献している.また,関数プログラム中のの関数は通常の数学的な関数に似ており,プログラミングを数学的な活動としてとらえて,プログラムのなすべきことの数学的記述から,等式による単純な推論によってプログラムを計算操作することができる.

プログラム変換

ひとつの問題に対して、それを解くアルゴリズムは複数存在し、それぞれの実行効率が大きく異なることも多い。同じ問題を解くいくつものプログラムが存在する中で、こうしたプログラム同士の関係やそれらを変換する規則が明らかになれば、プログラムを合成する手法や効率のよいプログラムを求める手法が確立できるようになる。これまで、多項式を因数分解するように、プログラムを対象とする計算術に関する研究が行なわれてきた。このプログラムを対象とする理論は、プログラムの構成手段として用いることができるばかりでなく、プログラムの性質を把握するにも有効であり、実際のプログラミングの基盤としてもきわめて重要なものである.

情報幾何学

平均と分散の組を決めると,正規分布をひとつ指定することができる.このように,正規分布には2つのパラメータ(平均と分散)があるため,正規分布全体の集まりは2次元の空間(多様体)と見なせる.この空間には,統計理論から見て自然な意味をもつ,計量や接続とよばれる微分幾何学的構造が導入される.このように情報幾何学では,統計,情報理論,量子情報,制御,最適化,統計物理など数理情報の諸分野で現れる対象に,情報の本来の意味から見て必然的で自然な幾何学的構造を導入する.この幾何学的構造を調べることにより,対象に鋭く切りこんでゆくことができる.

マルコフ連鎖

時間とともにある量がランダムに変化する現象は,自然科学・工学・経済などのさまざまな分野で現れる.マルコフ連鎖はこのような現象に対する基本的なモデルのひとつである.マルコフ連鎖をさらに発展させた確率モデルに,隠れマルコフモデル,マルコフ確率場,グラフィカルモデルなどがあり,遺伝子解析,エキスパートシステム,画像処理など多くの分野で利用されている.

統計的学習理論

データマイニング,ゲノムデータ,パターン認識などの分野では,大量のデータから学習を行い,観測されていない未知のデータについて適用できる情報をできる限り多く抽出すること(汎化)が要求される.このためにサポートベクトルマシンやニューラルネットを利用した学習が注目されており,関連する新しいモデルや手法が次々と提案されている.確率・統計,最適化,アルゴリズム,統計物理など数理情報のさまざまな方法が活躍している.

多変量解析

アンケート調査のように,多くの項目に回答のあるデータを多変量データとよぶ.多変量データを解析するさまざまな手法を総称して統計的多変量解析とよぶ.その主なものには,回帰分析,主成分分析,判別分析などがあげられる.これらの他にも計算機の発達にともない,より複雑なさまざまな解析手法が提案され研究されている.数学的な道具としては,線形代数が基礎であるが,群論などの代数的手法や微分幾何学等の幾何学的手法も用いられ,理論的にも深い理論が展開される分野である.

時系列解析

時刻と共に変化するデータを時系列という. 地震波・オーロラ等の自然現象, 為替・株等の経済現象, 脳波・心電図等の生命現象, 電力消費量・原子炉等の工学現象等のさまざまな現象に現れる量的な時系列やDNAの塩基配列, 疾患の良悪等質的な時系列がある. 時系列の背後にある時刻と共に変化する現象の数学的モデルが確率過程である. 不規則に変化するように見える時系列に触れたとき, その不規則な動きを支配する時間発展がどのようなものかを抽出し, 時系列の不規則な動きの一端を捕らえる性質を発見できたら最高の喜びであり, 時系列解析の目的の一つである. 時系列解析には確率過程論, 統計学, 関数解析, プログラミング, 計算機等さまざまな分野が関係している.

離散凸解析

離散的な集合(例えば整数格子点の集合)の上で定義された関数の構造を,凸解析と組合せ論の両方の視点から考察して,「離散」と「連続」を統一的に捉えようとする理論である.最適化,システム解析,オペレーションズ・リサーチ,数理経済学などへの応用があり,離散凸解析の視点に立つと,電気回路における電流と電位の関係と経済学における財と価格の関係が同じ種類のものであると理解される.離散凸解析は,近年,日本を中心に発展した分野横断的な学問である.