遠隔手術システム

医師が遠隔地の患者を手術するためのロボット手術システムの総称.無医村や船舶,戦場,宇宙空間などにおける利用が期待されている.要素技術としては,センサ類を含んだロボット技術やVR技術などが挙げられるが,人間を対象とするため,当然ながら一般の遠隔ロボット制御システムに比べて,はるかに高度の安全性が求められる.このため,現在,特に触圧感覚や温度感覚の提示機能の実現に対して大きな期待が寄せられている.

人工臓器

疾患や事故,加齢などにより失われたりあるいは衰えてしまった臓器や生体器官の機能を補助,代行するために利用される装置であり,狭義には所謂内臓を補助・代行する人工心臓,人工肺,人工腎臓等を指すが,より広く人工血液や,人工内耳,人工視覚システム,さらには義肢をも含めることがある.バイオマテリアル技術や各種電子機械技術の発展を背景に,近年,様々な人工臓器が開発され,一部は臨床応用にまで進んでいるが,最近では,再生医療技術との融合や棲み分け,人工臓器自体の制御方法の研究が注目を集めている.制御に関しては,生体本来の臓器と同様に,液性系,神経系の情報を利用することにより,生体自身に制御を委ねる方法が期待を集めている.

神経電極

神経系を伝わる情報は神経細胞の活動電位(神経信号)によって表現されている.神経細胞の近傍,あるいは内部に電極を置くことにより,この神経信号を計測することができる.また逆に神経細胞を刺激して,神経信号を発生させることもできる.このような電極を神経電極と呼ぶ.神経電極は,微細加工技術の発展を背景として近年著しい技術的進歩を遂げており,様々なタイプの新しい神経電極の開発が進んでいる.特に,神経電極の形状的可能性を広げる,アスペクト比の高い三次元微細加工技術が進歩してきたことが技術的に重要な役割を果たしている.

人工感覚

各種の物理・化学的刺激は,感覚受容器において神経信号に変換され,末梢神経や脳神経を通じて感覚野へと伝達され,さらに連合野などで処理,統合されて,視覚,聴覚,触覚等の感覚が生じる.この一連の感覚路の途中で適切な感覚情報を入力することによって,人工的な感覚を生成することができる.聴神経系を電気的に刺激することによる人工内耳はすでに臨床に応用されており,網膜や視覚野を刺激することによる人工視覚や人工触覚に関する研究も近年注目を集めている.

視機能計測

人間は視覚動物と言われ,人間が使う感覚情報は圧倒的に視覚情報が多い.そのように人間にとって最も大切な視覚情報を人間の眼はどのようにして獲得しているかを調べることが視機能計測である.計測4研では,視線方向,焦点調節,瞳孔反応を同時に計測可能な3次元オプトメータ(TDO:Three Dimensional Optometer)を開発し,それを用いて計測することにより,人間の眼球制御システムが如何に構築されているかを解明する研究とともに,視線方向,調節・瞳孔反応と認知との関係の解明を行っている.

脳機能計測

脳の働きを計測する手法としては脳血流を計測する方法(PET,fMRI,OT)と脳細胞の電磁気活動を計測する方法(MEG,EEG)がある.前者は間接的計測,後者は直接的計測に分類される.前者はイメージング画像として計測される利点があるが,後者は時間分解能が高くmsオーダである利点を持つが,活動源を計測データから推定しなければならない(逆問題).計測4研では,従来のMEGの最高計測チャネルが300CHであったのに対し,約1.5倍の440CHでベクトル計測も可能な世界最新鋭のMEG装置を導入し,一次感覚機能から記憶,注意,言語などの高次機能に関する研究を行っている.

計算幾何学

幾何的情報処理は多くの場面で必要とされる.パターン認識,地理情報処理,コンピュータグラフィックス,形状設計などがその例である.これらの分野に広く現れる基本的幾何問題を解くためのアルゴリズム体系を構築しようとするのが計算幾何学である.ここでは,注目する対象を囲む最小の凸図形,対象のそれぞれが張る勢力圏,領域の基本図形への分割などが中心的道具となる.また,数値誤差に対してロバストな幾何アルゴリズムの設計も,実用上大切な技術である.

数値計算法

いろいろな現象を非線形方程式や微分方程式などの数式の形に表現することが数理的解析の第一歩であるが,実は,そのようにして得られた方程式の解(答え)が閉じた形で解析的に分かることは稀である.工学においては最終的に「数値」が必要となるので,コンピュータを用いて方程式の解を数値的に計算することになるが,そのためのアルゴリズムの設計や解析を行うのが数値計算法の分野である.数値計算法の開発においては,問題固有の構造に加えて,解析学,線形代数,アルゴリズム論などの一般的な数学や計算機の利用技術が総合的に利用される.数値計算法は信頼性の高い数理手法の基礎を提供するものである.

モンテカルロ法

「針を落として円周率πが求まる」という問題(ビュフォンの針の問題)聞いたことがあるだろうか.平面に並行に線をひき,針を落として線と交わるかどうかを観測する.針と線が交わる確率は円周率πによって表されるので,針を何度も落として線と交わる頻度を求めればπを求めることができる.このようにランダムな試行をくり返すことにより確率や積分を求める方法をモンテカルロ法という.モンテカルロはカジノで有名な都市である.実際に多数回針を落とすのは面倒であるが,コンピュータの中で乱数を発生させて擬似的な実験をおこなうのは容易であるため,近年では解析的な解が求められないような問題に対してモンテカルロ法が多用されている.

データ構造

データの集まりを計算機の中で効率的に扱うには,一定の形式にのっとってデータを系統立てて格納することになる.計算機科学において,この形式のことをデータ構造と呼ぶ.同じ内容のデータに対してそれを表現するデータ構造が異なれば,必要とする記憶領域が異なるだけではなく,プログラムを実行する際の能率も大きく左右される.データ構造とそれを処理するプログラムの制御構造とは互いに深く結びついており,このデータ構造をどのように設計するかがアルゴリズム(プログラム)の効率に大きく影響するので,これまでに,様々なデータ構造が考案されてきた.基本的なデータ構造として,配列,スタック,キュー,線形リスト,木構造,グラフ,ハッシュ表などがある.