超高速低消費電力プロセッサ

トランジスタのスイッチング速度は電源電圧にほぼ比例する一方、スイッチング時の消費電力は電源電圧の二乗にほぼ比例する。したがって、プロセッサの高速性と低消費電力化は相反する要求であり、高性能マイクロプロセッサにおいては冷却可能な消費電力に抑えつつ高速化を図ることが困難となりつつある。この問題に対しては、プロセッサ内の全てのトランジスタが常に高速動作が必要とされていないことに着目し、不急の処理をする部分の電源電圧を落とし、プロセッサの処理能力を維持しながら消費電力を下げる手法が必須となる。その実現には、高速化とプロセッサの内部状態把握を同時に実現可能なアーキテクチャレベルの技術から、不急時に効果的に電力を低減可能なデバイスレベルの技術までを,新規提案し有機的に組み合わせる必要がある.

非同期計算システム

VLSI製造技術の進歩により一つのチップに搭載出来る素子数は飛躍的に増加しており,チップ全域へのクロック分配を必要とする同期式システムでは,クロック信号分配に伴う消費電力,位相のずれ等が問題となる.このような同期式システムの性能及び信頼性上の限界を打破する手段の一つが,事象生起の因果関係のみを駆動原理とする非同期式システムによる実現である.非同期式システムでは,必要なときに必要なところしか動作しないため消費電力が低く,前の動作を確認して次の動作を行うため遅延変動に対する耐性が高いシステムを実現することが出来る.非同期VLSIシステムのアーキテクチャとCADシステムの研究開発を行う.

オブザーバ

数学モデルを用いたシミュレーションで対象の内部状態を推測する仕組み.特に,推定値と測定値の誤差をフィードバックすることで誤差の収束速度を向上させたものをオブザーバーと呼ぶ.新たなセンサを用いなくても高度な制御ができるため高性能マイコンの潜在力を活かしやすい.モータ制御,エンジン制御,油圧制御などジャンルを越えて多用されている.

量子制御

近年,量子コンピュータ・量子暗号に代表されるように,量子力学的現象を利用した情報機器に関する研究が,物理学・情報理論など各方面で盛んであるが,その実現のためには,情報を担う量子状態を望むものに設定・保持する技術の確立が不可欠である.しかしながら,非線形性が強く外乱に弱い量子ダイナミクスを操作することは容易ではなく,これまでアドホックな方法が提案されてきたに過ぎない.量子制御とは,これを設計論としてシステマティックに実現するための理論であり,状態フィードバックを基本とし,いかにして望む量子状態を作り出すか,達成された量子状態をどのように長時間保持するか,といった問いに答えるものである.

最適レギュレーター

何らかの指標の元で最適性を達成する制御方式の中で,目標値が一定なもの.指標として,2次評価を用いるLQ最適制御や最大値ノルムを用いるH無限大制御が有名である.多変数系を扱えるという現代制御の大きな特長の実現手段の一つである.自動車のエンジン制御,サスペンション制御,航空機の自動制御,列車のインバータ制御など多数の応用例がある.

ネットワークド制御システム

ネットワークド制御システムとは,マスタースレイブに代表されるように,制御系を構成するサブシステムがネットワークを介して接続し,物理的隔たりが実質的に除去される制御システムのことをいう.近年のコンピュータネットワークの急速な高容量化により,このような制御システムの形態が一般的なものになると予想され,最近では最も活発な制御理論の研究分野の一つとなっている.研究課題は制御理論と情報理論の融合といった性質をもち,信号伝達の遅延や通信容量といった各サブシステム間を流れる信号に課される制約と,制御性能の関係の解析が中心である.

インピーダンス制御

インピーダンス制御とは,ロボットの手先に外から力を加えた場合に生じる機械的なインピーダンス(慣性,減衰係数,剛性)を,目的とする作業に都合の良い値に設定するための位置と力の制御手法のことである.ロボットの手先にバネやダンパなどの機械要素を取り付けて手先のインピーダンスを変更する受動インピーダンス法と,手先の位置,速度,力などの測定値を用いたフィードバック制御でインピーダンスを変更する能動インピーダンス法がある.研磨や組立などの接触作業を行う産業用ロボットや,人と直接触れ合う医療福祉用ロボットやアミューズメントロボットなどで用いられている.

ハイブリッド制御

身の回りにある多くの動的システムには,実際には連続的な振る舞いと,状態のジャンプ,切り替えなどの不連続性が混在しているものである.そのような対象への制御方式をハイブリッド制御とよぶ.例として飛躍時と接地時で運動方程式が異なるジャンピングロボットの姿勢制御,バルブの中間的な開閉調整のできないタンクシステムの液量制御,主として離散状態からなる情報機器における信号の流量の制御など,適用範囲は非常に広い.中心課題は安定性の補償などであり,近年活発に議論されている.また離散凸最適化問題に対する解法の適用など,数値解析的アプローチも研究されている.

動的システム設計

制御対象のダイナミクスを表す数理モデルをもとに,制御系全体を設計することをいう.制御理論の中心課題であり,これまで様々な手法の提案,理論展開が行われてきた.1950年代以前は安定判別法,ボーデ線図に基づく周波数領域における制御系設計法,ステップ応答に基づくPID制御などが中心課題であり,古典制御と呼ばれている.1960年代に入り状態空間表現が導入され,可制御可観測性,極配置,最適レギュレータ・フィルタなどが中心課題となり,現代制御理論と呼ばれている.近年は実システムに対する高度な制御系の実現を目指して,モデルの不確かさを考慮したロバスト制御,H∞制御,適応制御,サンプル値制御,非線形制御など,より進んだ制御理論が開発され,さらに発展している.

モデリング・システム同定

制御器の設計は,制御対象のダイナミクスを表す数理モデルをもとに行われる.その土台となる数理モデルの導出は,制御系の目的,設計者の考えが反映されるものであり,その後の制御系設計の成否を左右する最も基本的かつ重要な過程であるといえる.ここでダイナミクスの構成要素の抽出,簡略化,統合を経て,制御対象の数理モデルを導出する過程をモデリングと呼び,数理モデル含まれる未知パラメタを,制御対象の入出力信号のデータを用いて推測することをシステム同定と呼ぶ.後者においては最小二乗法,多入出力系の同定手法である部分空間法,有限データから考え得る全ての数理モデルを集合として与えるロバスト同定法など,様々な手法が提案されている.