仮想記憶

仮想記憶(virtual memory)とは,限られた容量の主記憶と大容量の補助記憶装置(具体的にはディスク装置が広く使われる)からなるメモリ階層において,ハードウェア機構とオペレーティングシステムのサポートにより,ユーザに主記憶の容量を意識させることなく大容量のメモリ空間を仮想的に提供する技術である。仮想記憶方式においては2つのアドレスが存在し,1つは主記憶として実装してある容量に対応する実アドレス(物理アドレス),他方は仮想的に実現される容量に対応する仮想アドレス(論理アドレス)である。ソフトウェアに提供されるのは仮想アドレス空間であり,実際のハードウェア上で実行する時には,仮想アドレスを実アドレスに変換する必要がある。このアドレス変換方式には,アドレス変換の単位が固定であるページング方式と,可変であるセグメンテーション方式がある.

補数表現

任意の数値に対して,ある定数からその数値を引いた数値を補数と言い,補数表現は主にコンピュータ内で負の数値を表わすために用いられる.通常,LSI内では低電位か高電位の2状態があり,それぞれ論理0と論理1として捉え,数値は論理0と論理1の組み合わせから成る2進数により表現される.2の補数表現を用いることにより減算を加算として扱うことができ,回路が簡略化されるため,コンピュータ内で数値を表わす時は2の補数表現が広く利用されている.

順序回路

回路の出力が現時点での外部入力のみでは決まらず,内部の状態にも依存して決定される回路を順序回路と言う。順序回路は記憶を持った回路であり,状態を記憶する素子としてラッチやフリップフロップと呼ばれる回路が使用される。一方,外部入力のみで出力が決定される回路を組み合わせ回路と言い,順序回路は組み合わせ回路と記憶素子により構成されると捉えることも出来る。記憶素子にはRS型,D型,JK型など様々な構成があり,タイミング制御方式もクロック信号に同期して状態を遷移させるものや,データ入力に応じて状態を遷移させる非同期式のものがある.

フォールトトレラント計算システム

計算システムが所望のサービスをユーザに提供しなくなった時,この異常を障害(failure)と言い,その原因となるシステム構成要素(ハードウェアとソフトウェアを含む)の異常をフォールト(fault)あるいは故障と呼ぶ.システムの高信頼化には,障害の原因となるフォールトが発生しないようにするフォールトアボイダンス(fault avoidance)と,フォールトが発生してもシステムとしては障害に至らないようにするフォールトトレランス(fault tolerance)の2つのアプローチがある.フォールトトレランスは,システム構成に冗長性を与えることで実現される.フォールトトレラント計算システムに求められる性質としてRASと呼ばれる信頼性(Reliability),可用性(Availability),保守性(Serviceability)がある.

超高速低消費電力プロセッサ

トランジスタのスイッチング速度は電源電圧にほぼ比例する一方、スイッチング時の消費電力は電源電圧の二乗にほぼ比例する。したがって、プロセッサの高速性と低消費電力化は相反する要求であり、高性能マイクロプロセッサにおいては冷却可能な消費電力に抑えつつ高速化を図ることが困難となりつつある。この問題に対しては、プロセッサ内の全てのトランジスタが常に高速動作が必要とされていないことに着目し、不急の処理をする部分の電源電圧を落とし、プロセッサの処理能力を維持しながら消費電力を下げる手法が必須となる。その実現には、高速化とプロセッサの内部状態把握を同時に実現可能なアーキテクチャレベルの技術から、不急時に効果的に電力を低減可能なデバイスレベルの技術までを,新規提案し有機的に組み合わせる必要がある.

非同期計算システム

VLSI製造技術の進歩により一つのチップに搭載出来る素子数は飛躍的に増加しており,チップ全域へのクロック分配を必要とする同期式システムでは,クロック信号分配に伴う消費電力,位相のずれ等が問題となる.このような同期式システムの性能及び信頼性上の限界を打破する手段の一つが,事象生起の因果関係のみを駆動原理とする非同期式システムによる実現である.非同期式システムでは,必要なときに必要なところしか動作しないため消費電力が低く,前の動作を確認して次の動作を行うため遅延変動に対する耐性が高いシステムを実現することが出来る.非同期VLSIシステムのアーキテクチャとCADシステムの研究開発を行う.

オブザーバ

数学モデルを用いたシミュレーションで対象の内部状態を推測する仕組み.特に,推定値と測定値の誤差をフィードバックすることで誤差の収束速度を向上させたものをオブザーバーと呼ぶ.新たなセンサを用いなくても高度な制御ができるため高性能マイコンの潜在力を活かしやすい.モータ制御,エンジン制御,油圧制御などジャンルを越えて多用されている.

量子制御

近年,量子コンピュータ・量子暗号に代表されるように,量子力学的現象を利用した情報機器に関する研究が,物理学・情報理論など各方面で盛んであるが,その実現のためには,情報を担う量子状態を望むものに設定・保持する技術の確立が不可欠である.しかしながら,非線形性が強く外乱に弱い量子ダイナミクスを操作することは容易ではなく,これまでアドホックな方法が提案されてきたに過ぎない.量子制御とは,これを設計論としてシステマティックに実現するための理論であり,状態フィードバックを基本とし,いかにして望む量子状態を作り出すか,達成された量子状態をどのように長時間保持するか,といった問いに答えるものである.

最適レギュレーター

何らかの指標の元で最適性を達成する制御方式の中で,目標値が一定なもの.指標として,2次評価を用いるLQ最適制御や最大値ノルムを用いるH無限大制御が有名である.多変数系を扱えるという現代制御の大きな特長の実現手段の一つである.自動車のエンジン制御,サスペンション制御,航空機の自動制御,列車のインバータ制御など多数の応用例がある.

ネットワークド制御システム

ネットワークド制御システムとは,マスタースレイブに代表されるように,制御系を構成するサブシステムがネットワークを介して接続し,物理的隔たりが実質的に除去される制御システムのことをいう.近年のコンピュータネットワークの急速な高容量化により,このような制御システムの形態が一般的なものになると予想され,最近では最も活発な制御理論の研究分野の一つとなっている.研究課題は制御理論と情報理論の融合といった性質をもち,信号伝達の遅延や通信容量といった各サブシステム間を流れる信号に課される制約と,制御性能の関係の解析が中心である.